第2章 2話

ここで当時のR32開発スタッフの言葉を引用しよう。

黒木龍二郎氏:
開発段階ではハイパフォーマンスとされるヨーロッパ車をいろいろと比較検討の為に乗りました。
そんな中でも印象的で凄いなと改めて感じたのがポルシェ944ターボなんです。
2.5リットルの直4、SOHCターボなんですが、フィーリングがいいんですね。
最高回転数はたかだか6500回転なんですが、実にいい加速をみせるんですよ。
息が長い加速と言うか、音を含めて上手く仕立ててあるんです。
その為に、RB20DETはカムプロフィールをかえて音や加速フィーリングも改良を施しました。

シャシ実験部松浦和利氏:
今回の開発では現場ドライバーの感応データを凄く重要視しました。
本当に走って気持ち良いセッティングという物を主管にぶつけたんです。
特に944ターボには徹底的に乗り込みました。48歳から23歳まで6人の実験スタッフが「これいいっていうけど本当かい?」てな感じで。
流石だなと思ったのは乗れば乗るほど奥行きの深い味わいがあるんです。
今度のR32は944と違う個性を光らせる事が出来たと思っています。

シャシ設計部飯島嘉隆氏:
今度のR32の開発に当ってはスタッフのイメージを合わせる為に、ベンツ2.3-16、BMWのM3、アウディスポーツクワトロ、ポルシェ959・944ターボを比較参考車として用意しました。
カッコでいうとM3なんでしょうけど、軽い操縦性がスカイラインには合わないなと思いました。
そしてベンツは安定性や安心感の面では凄い物を感じましたが、ハンドリングの楽しさは薄いように感じました。
そこで残ったのが944ターボなんです。
確かに生い立ちも格好も違うんですけど、刺激と言うか、感じる速さに魅力を感じたんです。
この乗って刺激を受けるのはポルシェの良さですね。車の動きをきちっとドライバーに伝え、車を操る喜びがあるんです。
輸入車が今売れてるのは単にステータスなんかじゃもうないと思うんです。
高質な走りを一度体感してしまうと国産車には戻れない。
でも、国産メーカーとしてはそれでは困る。
そこでスカイラインは走りの質そのものはBMWやポルシェのレベルにしとかないとなめられちゃうとなったんです。
全車マルチリンクにしたのもその一つです。
リアのマルチリンクは一言で言うと安定性、それに対してフロントは旋回性ですね。
リアのスタビリティを上げることでよりフロントが曲がりやすくなっています。
ドライで走りを楽しむなら断然GTS-tタイプMですよ。

主管 伊藤修令氏:
速さ・安心感・音も含めて人と車が一体となれる、車がドライバーにインフォームしてくれる、意のままに操れる楽しさがある車を目指しました。
メリハリのある解り易い商品になったと思います。
同じカテゴリーから目標車を選びました。
ベンツを超えて、BMWを超えて最後に944ターボを目標に掲げました。
人間に伝わってくるフィーリング・特に限界時コントロール性では944ターボをこえられたと思います。
ただ直進時の速さ、カチッとした剛性感に関してはまだまだポルシェの方が上です。


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