クリーンなスタイル、安定したコーナーリングフォースなどはどこの国、各雑誌、評論家そろって賞賛したが、 924の評価は必ずとも高いものではなかった。
ポルシェにはすでにカリスマ化した、「911」があり、しかもそれはまだ生産されていた。
排気ガス規制で鈍くなってきたとはいえ、まだまだ911は世界最高の動力性能、特にレスポンスの鋭さは他に類を見ないものであった。
どうしてもポルシェのエンブレムを背負う、と言う事は、この偉大なる「兄貴」と比べられる運命からは逃れられず、
しかも皮肉な事に、924への冷ややかな反応は主に不本意なアウディ製エンジン、特にマスキー法の発起国であるアメリカでその傾向は強く、
古くからの911フリーク達は914をVWとあざ笑ったのと同じように、924を「ポルシェの皮を被ったアウディ」と嘲笑した。
また動力性能については、不公平にもほとんどの比較が排気ガス規制前の、元気の良い車かその当時に開発された車と比べて 「重苦しい回転の上がり」とか、「パワーの無い鈍重なエンジン」と酷評され、 実際の性能よりもフィーリング的な要素で悪く言われる事が多かった。
しかし、今ここで確認したい。924は本当に『動力性能が低い』車だったのだろうか?当時生産されていたライバル達との比較を、 当時の資料を紐解いて調べてみようと思う。
これを見る限り、924は決して『動力性能が低い』車では無い事が分かってもらえると思う。
それとも、酷評されたのは「ポルシェの動力性能はもっと高くあって欲しい」という期待の裏返しだと考えるべきなのであろうか?
しかしポルシェ技術陣達は、924に関して自信を持っていた。
確かにエンジンに関しては今のところこれ以上の選択は望めなかったので、この冷ややか反応も仕方が無い、
と割り切り、むしろそれ以外の部分に関して評価が高かった事は、彼らが今後進めていく方針が間違っていない事をハッキリさせたと言って良い。
彼らは924を「本当のポルシェ」になるべく進化させる。
まず、酷評されたエンジン、特にアメリカ仕様のエンジンのパワーアップに努め上げ、
最高出力を100HPから115HPにアップさせた。
これは特にピークパワーよりも中速域でのピックアップの良さを中心に考えられ、フィーリング的にはかなりパワフルになったと感じられた。
また、エンジンの次に評判の悪かった内装の建て付けと仕上げにも手を入れ、ビニール張りのリアシートを前席と同じツイードにしたり、
締め付けボルトを大きくしたりして対策を図った。
次に、スポーツカーとしてすでに普及されている5速ミッションを搭載するようにもした。
これは実は幾つかの問題を結果的に解決する事になる。実は初期の924のミッションは、元はアウディ製の物を採用していたのだが、
その為にパワー・トレーンがエンジン→デフ→ミッションと並ぶ事になり、整備や生産の面で困ることも多かった。
これをポルシェ製の5速ミッションと置換える事により、エンジン→ミッション→デフと一般の車と同じ並び方になり、
今後の整備面などでも喜ばれる事となった。
もう一つ、924の初期のシフト・ブーツがギアチェンジの際すっぽ抜ける、というクレームも多かったのだが、
ミッションを変える事により、シフトストロークに自由の効く革巻に変更したためこの問題も解決した。
そして足回りは、ほぼ満足がいく物だったが限界付近の挙動と乗り心地が改善されれば・・・と言う声に応えてマウントとブラケットの変更、追加をして対処した。
924は少しづつ、しかし確実に進化を遂げていった。
そして、最初は冷ややかな反応を示していた連中も少しづつではあるが、この車の素性の良さを認めない訳にはいかなかった。